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Poem

天使悪魔ポエム

 弟よ、あぁ弟よ。今何をしているのかい。お前は何を見て何を考えているのだろう。お前のことが頭から離れたことはない。この光も闇もない寒い冥府の中で、俺はお前を忘れたことはない。
 聞こえるだろうか、この俺の想いが。届くだろうか、あの眩しい天界にいるお前まで。
ミカエルよ、お前の中に俺はまだ兄としているのだろうか。それとももう冥府の王として憎き敵になってしまっただろうか。お前の中にあり続けられるのであれば俺はなんでも構わない。
 俺はあの日間違ったことをしていない。何も後悔はない。ただ、お前と離れ離れになったことだけが俺の唯一の心残りだ。お前の中にあった美しき兄の像を俺は穢してしまっただろうか。それでも構わない。
 兄としてでも、魔王としてでも、たとえ裏切り者であったとしても……お前が俺の中で輝きに満ちた弟であることに変わりはない。愛している、弟よ。あの薄ら汚れた神よりも、ずっと。
ルシファーからの手紙




 昔、私たちの顔はまったく似ていないと思っていた。でも。  兄さんが堕天してから鏡を見るのが怖い。私の顔が、本当は兄さんにそっくりだったということに気づいてしまったから。双子なのにあまり似ていないのが兄さんと私だったのに。なぜ今頃、兄さんがいなくなってからこんなことに気づいてしまったんだろう。
 鏡を見ると、昔の美しい天使だった頃の兄さんがうつっているみたいだ。これは私のはずなのに。私の顔は兄さんより美しくもなければ特徴のない普通の天使の顔……そう思っていたはずなのに。
 私の顔が兄さんに似たのだろうか? 今更? そんなこと、あるわけがない。しかしここにうつっているのは堕天使でありながら冥府の魔王、ルシファーにしか見えない。
 私は一体どこへ行ってしまったんだ。私の顔は……。
 怖くなった私は、また鏡を割り壊してしまった。
ミカエルと鏡



 やっと憧れのルシファー様が魔界にいらしたというのに。ルシファー様は毎日のように弟のミカエルのことを気にしている。
 このアタシがいるのに。ミカエルなんて遠い存在のこと、すぐ忘れてくれると思っていたアタシがバカみたいじゃない。アタシはルシファー様の言うことならなんでも聞ける。命なんか惜しくない。……それなのに。
 ルシファー様はいつもあの憎い弟のことばかり。天界戦争を起こしたことに後悔はないって言ってたけれど、実はやっぱりあの弟のことが気になっているんじゃないかしら。
 もしミカエルが堕天なんかしたらどうなるかしら。きっと会わせてはいけないわ。
 ミカエルが近づいてくる度、アタシがアンタの記憶がボロボロになるまで殺してやるわ。
 ルシファー様の気高き強さを知っているのはアタシだけでいい。アタシにとってただ1人の大切なルシファー様。弟には負けない。アタシがルシファー様の脳みその中まで支配してやるんだから。あんな大きな邪魔者なんて記憶も心も体も消えてしまえばいいのだわ。
レヴィアタンの嫉妬



 ラファエルくん、一体どこに消えてしまったの。またあの生と死の狭間の空間に行ってしまったの。ラファエルくん、ラファエルくん、ラファエルくん……。ぼく、忘れないよ。これから何度あそこに行くことになったって、絶対にファラエルくんのことは忘れない。だから、ずっとぼくを守っていて。もう死ななくていいように、ずっとぼくのそばにいて。
 ラファエルくんが帰ってくるたび、一番に会いに行くのはぼくなんだよ。でも、それをきみはあとどれくらい覚えていてくれるのかな。
 ラファエルくん、お願いだから無理をしないで。戦わないで。ぼくの中の大切なラファエルくんを奪わないで。ぼくも生と死の空間に行ったことないわけじゃないけれど、そんなに記憶が抜け落ちるなんてことなかった。たまに思い出したようにぼくに、「ラミエル元気か?」なんて話しかけないでよ。
 ぼくのことを忘れないでほしい。これはぼくのワガママ。ぼくのことを忘れないでほしいから死んでほしくない。もうあの空間になんか行ってほしくない。ずっとぼくのそばで笑っていてよ。ねぇ、ラファエルくん。
帰りを待つラミエル



 いつも朝は誰よりも一番に目が覚めていた。しかし大人になり、四大天使となり……時がすぎるにつれて、ミカエルとタイミングが被るようになってしまった。本来ならば天使長にお譲りすべきところをミカエルの好意に甘えて先にシャワーやらなんやらの支度を済ませる。
 そのことをミカエルに聞いたら彼はあっけらかんと
「だってウリエルの早起きすごいから、私も見習わなきゃと思ってね!」
 と言って、颯爽と過ぎ去ってしまった。
 ここで、もう少し一歩踏み込んで会話ができるのならば、わたくしはそんなに困らずともいられただろう。今日もいい天気ですねとか、昨日は遅くまで大変そうでしたねとか、何か一言。そして勇気がでなくていつも無難な話題ばかり。……まったく、子供の天使たちには挨拶は大事ですよ、自分から話しかけることができたらえらい! などと褒めているのに、わたくし自身と来たら……。気になる相手に向かってはどうしてこうも情けなくなってしまうのだろう。
 ミカエルがあの時、ラファエルのことが気になると言い始めた日から、わたくしの思いはしまい込む他、道がなかった。自分にとって大切な人には幸せでいてほしいから。
ウリエルの苦悩



 やってやる。ここからさらに上を目指してやる。
 サタンと組んで冥府の狂犬とか凶鳥とか呼ばれてた頃は楽しかった。しかしルシファーに誘われ……七つの大罪という役職にまでまつりあげられ、オレ1人だったら絶対手に入ることなんてないだろうという地位まで手に入れた。オレは馬鹿だけど、愚かじゃねぇ。ルシファーを倒そうなんて微塵ぽっちも思っちゃいやしねぇ。
 今の地位にいたまま、さらなる力や、もちろん富を手に入れたいだけだ。そうするには、オレにはサタンが欠かせねぇ。サタンの力強い拳に何度ビビり、何度感謝したことか。
 仲間になれてよかった。オレはアッチ側からコッチ側の悪魔になったんだ! もうあのときみてぇな苦労はしねぇ。泥水を啜りながら、エネルギーの枯れ尽きかける痛みに堪えてきたあの日々。そこからサタンが救ってくれたんだ。サタンに声をかけられたあの日をオレは忘れねぇ。
 サタン、オレの王はルシファーじゃなくて永遠にお前なんだ。
マモンの王



 あ~~~~~もうぜ~んぶめんどうくさい。伸び切った髪の毛とか、そりゃ魔法でどうにかできちゃうけど、それをやることすらめんどうくさい。
 ベルちゃん……僕のベルちゃんいないのぉ? どうしてこういう時に限ってベルちゃんはいてくれないんだろう。ご飯作ってほしいけど、それよりもちょっとギュッとさせてくれるだけで気持ちよく眠れるのにぃ。ベルちゃぁん。
 ベルちゃんは正直言って人気者で、ズルい。ベルちゃんがじゃない、周りにいる奴らがズルい。僕だけのベルちゃんなのに、全然独り占めさせてくれない。いっそのこと、この部屋にベルちゃんを縛りつけて、キッチンとだけ行き来できるようにしてあげようか。そしたらず~っと一緒だし、ベルちゃんのご飯も食べることができる。
 ベルちゃんのご飯を他のみんなが食べてるのも気に食わない。全部、全部、僕の物だって言うのに!
 でも、ベルちゃんは別に僕のことが好きなわけじゃなくて……ただお世話しないとまた前みたいに倒れると思ってるからそういうことしてるんでしょ。ねぇべるちゃん。もっともっと僕だけ見ててほし~なあ~。僕がまた倒れたら心配してずっとそばにいてくれる?
 僕、もっともっと寝て大きくなって、ベルちゃんを食べられちゃうくらいになるからさぁ、そしたらもっとお世話してくれるようになる? ベルちゃん……。
ベルフェゴールの独占欲



 やわらかな金髪、甘い香りのする体、白い肌、細い腕……そのすべてが彼女に似ている。しかし彼は彼女ではない。そしてそれがまた心地いい。
 彼をぼくのものにしたい。してしまいたい。ぼくのものにして、すべてを奪ってしまったらきみはどんな顔をするだろう。悲しんで泣くのかな、怒るのかな。それともぼくと一緒にいる道を選んでくれるのかな。ぼくのものになってもなお、ぼくの横で一緒に星空を見ながら微笑んでくれるのだろうか。
 彼が彼であることがぼくにとっては一番だ。なのに壊してみたい。きみを壊したとき、大切なものを奪ったときの顔が見てみたい。でもそれでは彼が彼でなくなってしまうかもしれない。彼が彼でなくなったときを見てみたい。
 そんなことを考えてるなんて知らない顔できみはぼくにいつもの顔で微笑みかける。ぼくだけの表情、ぼくだけのきみ。美しい。これは決して懐古などではなく、ぼくはきみのことを愛している。
 この関係を壊すことが何よりも怖くてぼくは今日もきみに手を出せない。
アスモデウスの葛藤



 周りのみんなは僕が七大天使とはいえ、最年少だからって馬鹿にしてきたりする。でも、僕は自分自身の力でこの七大天使になることができた。他人の声なんてすべてやっかみ。聞き流すしかない。
 天界戦争のあの日、迷子になった僕を助けてくれた人。いい人だと思ってた。でも実は悪魔だったらしい。子供だったから、悪魔がどんな怖い存在か、ちゃんと知らなかった。
 大人になって偶然彼と再会し、やはり悪魔なのだと、すべてを悟った。
 ……でも、僕にとっては僕を安心させて約束してくれた、初めてのお友達。
 ダメだとわかっていながらも、会うたびに僕はあの人に惹かれていく。
 天使がなんだ。悪魔がなんだ。幸せに暮らすことができるならなんだったいい。僕もいっそのこと、あの人に、アスモデウスに堕天させられてしまいたい。
 そうしたら、周りに馬鹿にされるようなこともなくなるかな。あの人と一緒だったら僕はどこまででも堕ちていくのに。
 繋いでくれるその左手が、妙に遠くて寂しいよ。
ハニエルの願い


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