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Poem

北欧神話ポエム

 かわいそうな女、といつものように彼が私をせせら笑う。そりゃ人から見たらそうかもしれないけど、自分で自分のことをそう思っても、口には出さない。私はそんな気取りかたをするような安い女じゃないわ。そうかしら、と言葉を返すと、彼はまた鼻で笑う。
「素直になれよ……そういう女の方がかわいいのはわかってんだろ? だからお前の愛しいお兄様だって……」
 やめて、と彼の耳に残る声をさえぎると、また笑われる。本当にやめてほしい。そんなのもうとっくの昔に忘れたのよ。私、今が楽しいわ。そのはずなんだから、そうやって生きてるんだから。
あなたのそういうところ嫌い、と呟くと、彼は満面の笑みを浮かべて私に近づいて言った。
「嘘つけ、本当は好きなくせに、素直になりなよ」
 そうね、本当は好きかもね、体はね……言い終わらない内に、ゲラゲラと下品に笑いながら抱きしめられる。俺も好きだよ、体はね、なんてやめてよ。必要以上に優しくしないで、抱きしめないで。はしたない女だけど、頭悪いけど、本当は、私だって、私だって……。
 ……目を覚ますともう夜で、家には私ひとりだけだった。そうね、知ってたわ……。
フレイヤとロキ



 最後の最後、彼女はこの上ない苦しさと、痛みと、そして幸せを感じながら眠りにつきました。最期にゆっくりと閉じたまぶたからは甘い涙が流れていきます。小さな胸は上下に振れるのをやめ、細い手足はだらりと力なく下に落ちました。涙はとめどなく流れ続けましたが、口元には緩やかな笑みを見ることができました。
 小さな彼女を上から見つめる男は、ゆっくりと薄く笑って、彼女の頬に短い口づけをしました。彼女の首元には彼の手形が淡いピンク色となって浮かんでいました。
 男は上着を羽織ると、彼女の裸体はそのままにしてベッドから立ち上がり、家を出ていきました。
 誰も彼女が死んだことは知りません。気づきません。この家に誰かが立ち入ることは、近い世界の終わりまでありません。
 彼女は幸せに人生を終えました。
エイルの最期



 誰にも聞こえない声が一斉に彼女を責めたてる。やめて、やめて、と彼女は何度も叫ぶ。いつからか、王子様はどこかに消えてしまった。いつからか、ここにはちっぽけな「私」しかいない。どうしてこんなことに、どうしてこんなことに!!
 どれだけ夢中で助けを求めても、何も変わらない。彼女の声と反比例するように、責める声は反響を重ねて増大していく。この声から逃げられるのはあの男に会ったときだけ。あの男のせいで今私はこんなにも苦しいのに、あの男のおかげで声から逃げられるなんて、どんな皮肉なんだろう。もう顔なんて二度と見たくないし、声も聞きたくない。後ろ姿ですら視界に入れたくない。
 なのに、なんで会いに行ってしまうのか。心が安らいでしまうのか。
 一体、ボクはどこへ行ってしまったというのだろう。みっともない裏切り者、穢れている。私を責めたてる声は鳴り止まない。きっとこの先ずっと、「私」が死を迎えるまで。
ナンナの声



 ふと我に返る。あたしは大嫌いな家事をしている。料理、掃除、洗濯、裁縫……。毎日同じことの繰り返し、何も変わらない。あたしはこの部屋から出ることさえ許されていない。自由なんて何もない。いつの間にかさらわれて、閉じ込められて、子供を産まされて、その子には会えない……。
 もういや。こんな生活はいや。誰かに助けられたいわ。でも、誰もこんなところには来ないし、来たとしてもあたしを召使みたいに扱う巨人しかいない。あたしを助けてくれる人は誰もいない。あたしだって、あたしだって、素敵な人に抱きしめられて、嫌いな家事も頑張って、楽しい家族をつくりたかった。それなのに……。
 そこで目が覚める。昔の夢。これは夢。
 隣にいるのはあんたじゃなくて、いつもあたしに面白い話をしてプレゼントをくれる男。でも、あたし、あたしは……、あんたのことをずっと待ってる。あたしの夢を叶えてくれた人。
シフの夢


天使悪魔ポエム
死人創作SS




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